小指が使えない生活―「長橈側手根伸筋」について  byサイモンズレミ

 昨年末バタバタと慌ただしく師走を過ごしている時に、手をぶつけて右手小指の腱を切ってしまいました。それほど何の痛みもなく、気がついた時には指がぶらーんと第一関節から折れ曲がっていました。おりしもロールモデル®メソッドの指導者養成講座を受け終わったばかり。いったい私の身体の中で何が起きているのだろうと、どこか冷静に「これは痛くないし腫れてもいないから…骨折ではなさそう、腱かしら?靭帯か!?」などと考えながら指専門のクリニックへと駆け込みました。レントゲンを撮ると、やはり骨折ではなく、先生曰く「指を伸ばす筋肉の腱が切れている」ということでした。そこですかさず「筋膜の勉強をしたばかりなんです!詳しく教えてください!」と前のめりで言うと、先生はご自身が解剖なさった手の写真が載っている解剖書を出してきて、見せてくださいました。その写真を見てわかったことは、指を伸ばす筋肉の腱は薄く平らで、そのため切れても縫うことができず、ギブスで固定して腱がくっつくのを待つしかなく、指を曲げる筋肉の腱は棒状の丸みがあるもので、それは切れても縫うことは可能だ、ということでした。

その日から私の2か月間のギブス生活がスタートしたのです。

 最初はただの小指、だと思って軽く考えていましたが、いざ小指が使えない生活を始めると、小さな小指でもとても大きな役割があるのだ、と気づかされました。小指が使えないだけで、腕に力が入らないのです。包丁も握れません。財布から小銭も出せません。洗濯バサミもつまめません。そうして一週間が過ぎた頃、私の前腕は疲労が蓄積し、パンパンに固くなってしまったのです。慌ててセラピーボールを前腕に当ててスキンローリングをしてみると、痛いこと痛いこと。そこでこの小指を伸ばす腱の先にある筋肉はどこにつながっているのだろう?と疑問に思い、養成講座で使った解剖学の本のページをめくり、前腕の筋肉について調べ始めました。そして一番凝り固まっている筋肉は長橈側手根伸筋、つまり指を伸ばす筋だ、ということが分かりました。これらの筋肉は手関節を伸展させたり、人差し指から小指を伸展させる筋肉です。長橈側手根伸筋を覚醒させる日常の動作は数え切れないほどある!と身をもって学びましたが、子育て中の母親である私は、「包丁を握り手首を安定させながら、包丁の刃先を持ち上げ硬い人参を切る」という動作がこの筋肉をよく働かせ覚醒させることに気づきました。ピラティスやヨガのポーズでは、「四つ這いになるポーズなどで手関節を伸展させ、手の指もしっかりと伸ばし、床をとらえ手首を安定させる」という動作がこれらの筋肉を覚醒させてくれます。

 

 

ロールモデル®メソッドの指導者養成講座を受けたことで、身体に対する向き合いが変わったのが自分でもわかりました。今回の怪我の経験を通して、身体に何が起こっているのだろう?と疑問に思い、色々と自分で調べるようになったのです。そして「ギブスが外れた後は筋膜は固まってしまって、指を思うように動かせないだろう。」と感じました。その時にはロールモデルメソッドの筋膜リリーステクニックを施し、自分の指がどこまで回復するか、その過程を身体を使った人体実験のように観察するのが楽しみで、今からワクワクしています。

 

(ご報告)

その後、2ヶ月半のギプス生活を経て、小指の腱はつながりましたが、ギプスを外した直後は指が真っ直ぐなまま曲がりませんでした。さらに2ヶ月かけてゆっくりと指を曲げる練習をし、今は8割ほどまで曲がるようになりました。特に後遺症もなく、腕のストレスが少なかったのも、セラピーボールでセルフケアをしながら過ごしたことが大きかったと思っています。

サイモンズ=レミ (ロールモデルメソッド®認定講師)著

9 thoughts on “小指が使えない生活―「長橈側手根伸筋」について  byサイモンズレミ

  1. hikaru.k より:

    指の第5指、第一関節の腱断裂についてしらべてみました。
    指を伸展する腱が断裂したことで終止腱の断裂マレットフィンガーの1型と思われ
    日常の突き指などでよく起こります。
    自身が調べても腱断裂で伸展位で固定6〜8週間くらいかかり、骨折の方が短い固定期間で固定が外れます。
    それを考えるとやはり腱が細いから付きにくいんだと理解できました。
    上腕骨外側上顆に起始する筋(長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、小指伸筋その他)
    収縮すると伸展(背屈)するので屈曲(底屈)を緩めて徐々に動きを出せたらと思います。

  2. rie より:

    自身が身体に興味を持っていなければ、あぁ怪我しちゃったで終わってしまう出来事なのかもしれません。
    人体の運動生理学や解剖学を学び、カラダを動かすことを伝える私としては、自他の怪我や病気はとても学びと捉えています。痛みが生じて動かしにくさを感じた時に、全てに意味があると改めて感じます。手の指の長さが異なることも、5本あると言うことも。
    そして、カラダはココロは繋がっていると考えています。痛みや動きが失われたことにより、スムーズさに欠け苛立ちや落ち込みの気持ちが生まれます。
    痛みや動きが失われたことをネガティブ(精神的苦痛)と捉えれば、肩にチカラが入ったり(肩関節挙上気味)、うつむき目線で姿勢も崩れてくるであろうと想定します。出来ればポジティブに捉え、負傷部位以外は、良好な状態で回復を待ちたいです。
    この記事で知り得たことは、縫うことが出来ない時の理由である。指を伸ばす筋肉の腱は薄く平らであるということを知りませんでした。
    なかなか体内を見たり、感じることが難しいですが、自身の身体のことは知りたい!
    学びは尽きないなと思う今日この頃です。

  3. K より:

    私も左手の指を手術した時に似た様な経験があり、大変だった事を思い出しました。同じように指一本使えないだけで物を握る事が出来なくなり、腕がぱんぱんでした。前腕全体がぱんぱんに張っていて、肩や首まで凝り固まりカチコチの状態で、辛くて辛くて主治医に相談すると、痛み止めを出してくれました。でも動かさずに固まった筋肉には痛み止めでなく、必要だったのは私もロールモデルメソッドでした!怪我により動けない部分も、ロールモデルのボールリリースで無理なく解きほぐしていく事が出来ました。ロールモデルに出会えた事に、とても感謝しています。

  4. sakura.u より:

    手の小指が使えないだけで、日常生活にそんなにも影響があるんだと、健康に感謝しないといけないなと思いました。
    私もヨガチューナップ養成コースに参加し、身体のことを深く学ばせてもらったので、日常的な動きや今やってるスポーツに関連させて日々学んでいきたいなと思いました。
    身体の学びを深めることで、自分や周りの人の身体の変化にも気付きやすくなるのはいいことだなと思いました。
    不調にいち早く気付ければ、その原因を取り除いたり、対処が早くできると思います。

  5. Chika より:

    まずは指専門クリニックがあることに驚きました(笑)
    先日の養成期間中に左手中指を突き指してしまいました。物を置いた時に中指の第一関節が伸展してしまったようです。
    痛めると今まで気づかなかったことに気づくので、痛いのは嫌だけど勉強になるとポジティブに捉えています。
    この記事の小指なんて特に役割が少ないようにも感じるけど、なるほど包丁を使う時にも影響があるのかと、人間の体は完璧に作られているんだなと思いました。

  6. あんり より:

    Remiさん小さなお子さんもいて、指導もあるのに指が使えないのは大変でしたね(!)とても興味深い経験をシェアありがとうございます。私の事ではないのですが旭川の父が手首を骨折してしまってやっとギブスが外れたところなのですが、やはりずっと動かす事ができなかった為肘下の筋肉が固まってるのではないかと思い、早速この間ビデオコールしながらセラピーボールを使ってもらいました。すると数分で「ああ、これは気持ちがよい、指も動きやすくなった」と言ってくれました。運動も滅多にしない彼ですがこれからもセラピーボールを使って健康な生活を送って欲しいです!

  7. タミエ より:

    小指は手の他の部分を補完し、物を掴む時に握力を安定させるという大切な役割があるんですね。ギブスをしての2か月間は本当に大変だったと思います。私の場合指のケガではありませんが、指が突然不自由になったことがあります。50才を過ぎた頃でした。ある朝突然両前腕、掌、指先がズドーンと誰かに踏まれたように重いんです。特に第2、3、4、5指は軋んで中々動かない、温めたりして少しずつ動くようになり1時間位で戻るのですが、何もわからずとても悩みました。整形外科で「加齢だよ」「女性は家事で手を酷使するからね」と言われ赤外線を指に当てるリハビリを勧められました。結局1~2か月で完全ではないけれど、8割位までは自然に戻りました。あの時にロールメゾットに出会えていれば筋肉、筋膜、骨、神経などもっともっと理解できただろうし、早く改善出来たのではないかと思っています。

  8. Chiaki より:

    どんな小さな怪我でもQOLの質を下げる。
    けれど怪我によって気づくこともまた多くあると、実体験でも感じます。
    年齢とともに怪我や病気からのリカバリーに時間を要するようになったと感じる今日この頃なので、
    若いときのような乱暴な身体のの使い方をしないよう、丁寧な動きを心がけてはおりますが、
    やはり怪我することもあります。
    その時知識が助けになるのだなとこのブログからわかりますね。
    自分の身体は常に自分が一番興味を持ち続けることが大切だなと思います。

    動かさないと身体は動かなくなる。
    怪我時のリハビリ、日常の運動は本当に重要ですね。

  9. Satomi KAWASHIMA より:

    同僚が、バレーボールの試合中に右アキレス腱を断裂して、ギプス固定を経て、現在は装具で保存療法中です。装具が外れたらリハビリ生活が待っているわけですが、同じことが考えられるのですね。彼にセラピーボールでのケアを勧めるつもりです。

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