誰も知らなかった筋膜の実体

長年誤解されてきた筋膜ですが、近年になってようやく日の目をみるようになり、人々の認識も高まってきました。誤解されてきたその大きな理由には「筋膜には実体がない」ということがあります。筋膜の形は体の動きとともに動き回り、変わり続けます。硬くて繊維質かと思うと、ねばねばしています。お腹の脂肪のようにわかりやすい時もあれば、筋肉の中の細胞の周りをマントのように覆っている膜状で、つかみどころのない時もあります。このようにもそもそと動き回る性質の物体に焦点を当てるのは難しいものです。しかし筋膜なしでは私たちは歩くことすらできないのです。ではまずバイオテンサグレティを考えてみましょう。筋膜を理解するためには欠かせない概念です。

バイオテンサグレティとは?

人体は決して滑車とレバーのようなシステムではなくバイオテンサグレティの構造でできています。「バイオテンサグレティとは推す力と引く力が両方とも優勢になる状態」を指します。骨は圧縮に耐える「支柱」の役目をし、筋膜は張力をもたらし、骨は筋膜の中で浮いている状態です。つまりその張力が体のシステム全体に分配されるのです。これにはどんな意味があるのでしょうか?つまり、痛いところがあったら、ケアをしなければいけないのはそこではないかもしれない、ということなのです。筋膜は組織であり、システムでもあります。ここからの定義も、過去十年の間にようやくなされたものです。

バイオテンサグレティのモデル

「過去には無視されてきた筋膜が近年では体の動き、理想的な姿勢を保つのに重要な役割を果たしていることがわかってきました。現在は隔年で筋膜研究会議が開催されているくらいなのです。」

筋膜研究会議の定義づけはより専門的です;

「筋膜は鞘、シート、または皮膚の下にある結合組織の集合体で筋肉同士、筋肉と他の臓器をくっつけ、覆い、区切る役割をしている。(FICATによって認められた定義)」

『筋膜のシステムは三次元的で柔らかくコラーゲンを含んだ,体中に拡がる緩く密集して繊維質の結合組織を指す。含まれるのは脂肪組織、血管外膜、神経血管の鞘、腱膜、深浅筋膜、神経上膜、間接包、靭帯、膜、髄膜、筋筋膜拡大、骨膜、支帯、隔膜、腱、内臓筋膜、筋肉の内側と外側の結合組織(筋内膜、筋周膜、筋上膜)。筋膜のシステムは囲み、間を繋ぎ、内臓、筋肉、骨と神経繊維全てを貫通している。体全体に機能的な構造と、体のシステム全てが統合運行できる環境をもたらしているのだ。』

科学者でない私たちのためにより簡潔な定義づけを考えました。

”筋膜は体内にあって水で織られた布地のようなものだ。このシーム(つぎめ)のシステムは体内にあって体自体につながる柔らかい結合組織の棚台のようなもの。このシームは身体中につながっているものの、筋膜の感触、張力、目的はそれぞれ違う。”

筋膜と筋肉の繋がり

ここに3つの違った種類の筋膜を紹介しましょう。

  1. 浅筋膜(乳輪、皮下脂肪):筋膜は浅筋膜から始まります。おしりかお腹の周りの肉をつまんでみてください。皮膚の下の筋膜の感触が分かりますか?浅筋膜は皮膚のすぐ下にあり皮下脂肪の基盤 の上、緩く組まれた乳輪状(蜘蛛の巣に似ている)のコラーゲン繊維でできてています。この層はスポンジのようで跳ね返りがあり、ふわふわしています。私たちの体の98%は脂肪の豊富な浅筋膜で覆われています。実際に、このような表面の保護的脂肪層に覆われていない人体の部位は耳、鼻、唇、まぶた、陰唇、陰嚢のみとなります。3層の筋膜は皮膚を筋肉から隔て、それぞれの層がお互いに滑り合うようにできています。またそれは体温の制御、代謝とリンパの流れにも関係しています。感覚器の末端が多々埋め込まれており、様々なタッチや圧の感覚のフィードバックを脳に送る役割を果たしています。
  2. 深筋膜: この記事を読みながら触診をするなら、太腿の横の有名なバンドを掴んでみてください。アディダスのパンツの横のストライプのあたりにあるのが腸脛靭帯(ITバンド)、これこそがキラキラの深筋膜の良い例です。深筋膜は見た目は強いガムテープ、色々な形に縮んで波打った形をしています。非常に組織立っていて筋肉の周りを囲っているか、分厚くて広い腱膜として存在するのです。この筋膜の層は全てを分離しながらも結びつけます。また関節、近くの筋肉に筋筋膜内にかかる力を伝達するのもこの層です。
  3. 緩筋膜:「滑りやすいシーム」によって層が縫い合わされているため、緩筋膜を見つけるのは困難です。その感覚を掴みたければ前腕の一部を抓り、前後、上下に動かしたり回転させ捻りあげてみてください。引っ張って離し、皮膚が元の形に戻る様子を見てみましょう。深筋膜にも浅筋膜にも当てはまらない筋膜の事を緩筋膜と呼びます。それは深筋膜同士の層の間、筋膜と筋筋膜の間、浅筋膜と深筋膜の間に見られます。構造的には蜘蛛の巣、又は膜のようなものです。(膜筋膜)

緩筋膜は身体中に「ずらす」と「滑らせる」動きを起こします。2018年にはこの緩筋膜の部類で新たな解剖学的発見がありました。「液体の詰まった空間」、それによって体が繋がっていることを科学者が発見、これが身体中で起こる動きのコンジット(導管)的役目を務めているのがわかり、この空間は「間質」という筋膜の新しい名前として誕生したのです。

皮膚下の浅筋膜、筋膜と筋膜の間の滑りやすい層を掴んでみる

 


5 thoughts on “誰も知らなかった筋膜の実体

  1. 脇田 千陽 より:

    筋膜に種類があることは講義を受けるまで知らなかったので大変興味深いです。特に緩筋膜とか、最近見つかったという間質、またそれらがネットワークを形成して情報を伝えていることは面白いと思いました。

  2. Chika より:

    筋膜を知るまでは筋肉によって体が動いていると思っていましたが、筋膜なしでは私達は生きていけないと知ると筋膜のケアをすれば自分の体の可能性を感じます。
    仕方ないと諦めていた体の痛み、硬さ、動きの制御、これらは筋膜リリースをすることで筋膜に潤いや動きを取り戻すことができる。
    足裏のリリースで腰が楽になったり、お腹のリリースで首が楽になったり、テンセグリティによって体が成り立っているのも感じられます。
    常に張力バランスが整った状態で居たいなぁと思います。

  3. rie より:

    人類が誕生したのは、およそ500万年前。
    医療の発展などもあるが、まだまだ人体の知らないことは沢山ありそうな気がする。
    自身のカラダを大切にするほど、カラダに興味が湧いてくる。
    表層の皮膚を改めて見ると、繋ぎ目がない。
    小さく浅い切り傷でも、痛かったりしみる感覚がある。
    その皮膚の下にある膜、筋肉の周りにある膜は、このような小さな傷にも関与しているのだろうか?
    今こうしてパソコンのタイピングを行う姿勢にも関与してると考えると、日頃の身心のコンディショニングの重要性を感じる。
    自分を労るって大事で大切だと改めて思う。

  4. Chiaki より:

    全身に張り巡らされている筋膜の役割はすごいものですね。
    人間の身体の不思議と奥深さを感じます。
    筋膜がどのようになっているのが理想的なのか、
    加齢により筋膜はどのように変容していくのか、
    これからゆっくり探求して自分の身体で感じられるようになりたいです。

  5. Satomi KAWASHIMA より:

    ―バイオテンサグレティ―ヨガチューナップⓇを学んで、知ることができて一番感謝しているのはこの概念です。身体を理解する上で、生命を理解する上で、鍵となる概念なのではないかなと思います。

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