ヨガでカラダが壊れる時

「ヨガでどうして体を壊すのか?」という記事が2012年にニューヨークタイムスマガジンで発表されてからしばらくになります。「体に良い」とみんなが思っているヨガで体が壊れる。そんなことが本当にあるのでしょうか?きょうはこの記事に基づき、アメリカと日本の国民性の違いも考慮しながらお話していきたいと思います。

ヨガのマスターティーチャー、Glen=Blackは40年間セレブやカリスマヨガ教師にヨガを指導してきました。インドのプーネで故B.K.Sアイアンガーに師事してヨガを修行、そのあと人里離れた境地で何年も瞑想修行を続けた大先生です。今ではヨガニードラ、呼吸や瞑想のクラスを教え、その鋭敏な観察力と直感力を使ったボディチューニングとボディワークを提供。彼のところにはヨガの怪我で痛い思いをしたヨギーたちが、リハビリのために通って来るそうです。ちなみに日本でも接骨院に行くと、ヨガの先生ばかりらしいですよ。

Glen=Blacのヨガクラスはごく少数のシンプルなヨガポーズから成り立ち、肩立ちや頭立ちなどは一切やりません。「ただ達成感を得るために忙しく一連の動きを追いかけるヨガならやらない方がいい。」有名なヨガの指導者でも必ず体に弱点があり、それがヨガで浮き彫りになって怪我につながっていくのです。Glen=Black自身、長年ヨガの激しい後屈や捻りの練習を続けたのがたたり、近年になって脊柱狭窄症の手術を経験しています。

Glen=Blackはこう言います。「この頃のヨガを練習する人口そのものが問題だ。インドでは座禅スタイルで座ったりスクワットをすることが当たり前。1日中椅子に座って、体に問題を抱える西洋人が週に2〜3回ヨガを練習、いきなり難しいポーズをするのが体にいいわけがない。」彼は体を壊したヨギーたちにはきっぱりと「ヨガをやめるといい」と伝えています。

「正座の練習をする!」と決めて毎日1時間正座(ヴァジラサナ)し、世界平和を祈って瞑想した大学生の男性。やがて彼は痛みを感じ歩行、階段の登り降りが困難になったそうです。腰からお尻、脚、膝まで伸びる坐骨神経が圧迫されて反応しなくなってしまったのです。正座をやめた途端に体は回復したそうです。

ヨガの早い動きにはリスクが伴います。首の激しい反り(伸展)は特に問題です。通常人間の首は75度伸展、40度屈曲、45度測屈、体軸において50度回旋できるものです。ところがヨガをしばらく練習している人は首を90度回旋―と、通常の倍近くもの可動域があります。B.K.Sアイアンガーはコブラのポーズのとき首は無理をして反りすぎてはいけない、と言っています。28歳の健康な女性がブリッジの練習のときに首を反りすぎて脳卒中になった事件がありました。この女性は2年経っても歩行に問題があり、体の左側に麻痺が残ったそうです。またヨガを毎朝練習していた25歳の健康な男性が首の過剰な屈曲で神経障害を起こし、杖なくては歩行できなくなったそうです。他にもシンプルに思えるダウンドッグでアキレス腱を断裂する人、ハムストリングスを故障する人も絶えません。

アメリカ人は比較的アグレッシブな動きを好み、今でも老若男女、激しく動くヴィンヤーサヨガに取り憑かれて練習している人を見かけます。やがて体に痛みを生じ、股関節や肩関節を置換しなければいけなくなった人を何人も見てきました。ヨガの問題点はパターンの決まった動きを何度も繰り返すことです。私自身は手遅れになる前にそのような練習はやめ、今ではヨガチューナップ®の矯正的動きを中心に練習しています。ヨガが爆発的にブームになってから20年。アメリカではこのように意識を持って体を動かすプラクティショナーが増えてきています。

日本人は一般的に動きの少ないヨガを好むようです。若い人の間でも「寝たままでできるヨガ」が人気を集めているようですが、でもそれはいつかは「寝たきりヨガ」につながっていく、ということを知っておいた方が良いでしょう。体を動かした後にウォームダウンでストレッチをするならともかく、1日中椅子に座った後に「寝たままヨガ」では何のためにヨガをやっているのかわかりません。Motion is Lotion. つまり関節を動かしてあげることで、体内の繊維の間に潤いが生まれ、潤滑に滑り合う関節を保つことができるのです。体を静止させたストレッチよりも、ダイナッミックストレッチ、つまり体を動かし続けるストレッチによって関節の機能性を高め、同じ方向だけの繰り返しでなく、さまざまな方向の動きを探究することが大事なのです。

7 thoughts on “ヨガでカラダが壊れる時

  1. 脇田 千陽 より:

    ヨガを始めた時はポーズをとれるかどうかばかりが気にかかりました。ヨギーで習っていくうちに段々と筋肉の使い方を気にするようになってきて、今まで筋肉を意識せずにポーズをとっていたんだなと気づくことが増えました。
    Motion is Lotion、とても良い言葉だと思います。無理なく続けていけるように筋肉を意識して動こうと思います。

  2. Tanemto Yutaro より:

    体の健康のために取り組んだことが逆に体を壊してしまうと言う事実はしっかりと向き合っていかないといけません。
    ブログを読んで思った事は何でもやりすぎには注意をしなければいけないと言うことです。
    どんなに良い動きや考え方でも行き過ぎてしまうとやはり無理が出てきます。ご自身の体に合った動きやご自身の身体にの筋力や可動域などを踏まえた上で選んでいかなければいけないと思いました。
    それ以外では指導する立場の人もしっかりと知識を得た上で指導しなければいけません。
    体の可動域などを明確に何度まで何度までそのような知識がしっかりあることが重要だと感じました。
    しかし現場で新しいシークエンスや無理をした体の使い方でのポーズの形成を目的としまた違った方向での体のアプローチを進めているような気がします。
    健康な体を作るためにも知識を深めご自身の体に合った強度で体を動かすことが重要だと思いました。

  3. Hiroko Sawaguchi より:

    題名をみてドキッとしました。私もヨガの練習とアジャストでケガをしたことがあるからです。
    首のそり過ぎで脳卒中を引き起こされた方がいるとは驚きました。
    でも首はとてもデリケートな場所なのでそのようなことも起こるのかもしれないと思いながら読みました。
    生徒同士の3人一組のアジャストで対格差のある方に頸部をロープで引っ張っていただいたときに頸部に違和感を感じ半年近く整骨院に通ったことを思い出しました
    ヨガを受ける生徒も指導者も正しい知識をつけて練習をすることが必要だと思います。

    Motion is Lotion!素晴らしい言葉だと思います。

  4. イヌカイ マレミ より:

    難しいアーサナを達成することがアーサナのプラクティスであるという思われがちな昨今の日本のヨガについて以前から疑問に思っていました。
    もともとは、ホリスティックに人間の全体性(物質としての身体、マインド、エネルギー、そのベースになるもの)を身体を使ったプラクティスを通じて探求し、調和を発見するための練習だと考えています。

    身体を使うなかから気づきを得て、学び、心が育まれるという事の偉大さを、半世紀生きてきた今しみじみ実感する事が多々あります。

    私自身は、もともと運動が苦手だった事が功を奏して、慎重に練習してきたせいか、できるアーサナのバリエーションは少ないですが怪我なく今までヨガを
    続けることが出来ています。また、今回のコラムを拝読して、自分に合った牛歩の歩みにも改めて満足しました。

    骨格も日常の動き方も一人一人全く違うなかで、ポーズに人を無理矢理はめこむようなプラクティスや、指導を行わないためにも、あらためて自分の身体を知って、本当に必要な動き、LotionになるMotionを自分自身にも他者にも提供できるようになりたいと思います。

  5. 石井 智恵 より:

    心の健康と体の健康を求めて行うはずのヨガなのに、結果だけを優先して求め過ぎるあまり、心の健康を置き去りにしてしまい、過度に体を
    使い過ぎ極度な神経障害や麻痺が残り歩行困難になってしまった若い方の事例が余りにもショックに、感じました。
    私も、始めた頃は、嵌まり綺麗に見せたいと思うばかりに気を取られて居た時期もありました。この様な経験を活かしヨガの心と身体の健康に、なる言葉と動作を正しく伝えていく事に心がなければならないと強く思います。
    又何よりも重要な事は、指導者の適切な誘導だと思います。
    YTUボールは、改めて筋膜リリースのセルフケアで、筋肉。筋膜を解り柔軟性を高め
    長く健康を持続出来る身体で居られる様に的確な言葉で正しい知識と技量を身に付ける事が
    最も重要だと思いました。

  6. Enatsu より:

    ヨガでは、自分にはできそうもないアーサナ、やっぱり憧れます。
    私自身は、無理しないタイプの人間なので、ヨガで接骨院に行くことはないです。それでも、1週間くらい、あれ、何か違うことやったなー、違和感がある…、ということがあります。
    けれども、あまりにも大事にし過ぎて、全く無理はしないとなると、身体機能の向上が期待できませんし、憧れのアーサナに近付くこともできません。塩梅が難しいのだと思います。しかも、個人にしかわからないことなので、その本人自身が感覚を研ぎ澄ませるしかないのです。ただ稀に私のことを知っているかのようなヨガの先生が、導き、近付けてくれることがあります。
    ヨガに限らず、そのようなパーソナルな指導ができると良いですね。
    まずは、自分自身を痛めないように、上手に、学んだボールのケアを実践して行きたいと思います。

  7. アキ より:

    長年ヨガをプラクティスしてきましたが、その中で世の中の変化とともに流行りのヨガのスタイルも変化しているのを感じます。パワーヨガがはじめて日本で紹介された頃から、その後アシュタンガヨガが人気になり、デジタル全盛となった今ではディープリラックスなど、頭も体も休めるヨガも人気です。私も最初アシュタンガヨガのプラクティスをしていましたが、プラクティスによって得る感覚がしっくりこずヨガジプシーとなりましたが、やがてアーユルヴェーダをベースとしてヨガをすることにたどりつきました。今はYoga Tuneupに出会い、科学的な見地も踏まえて自分の内側を感じるエンボディーメントのスキルを高めることがヨガに通じると思い、取り組んでいます。ヨガは歴史が長い分、時代や人によって解釈が違ったり、ミステリアスでよく分からないところが魅力的もありますが、捉え方を誤ると自身や人を傷つけてしまうツールにもなりかねないので、ヨガの魅力に翻弄されないように自身の内側を感じるスキルを高めたいと思います。

石井 智恵 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です